ムースコール

2009年7月31日金曜日

The Dog Days of Summer

「dog days of summer」とはそもそもシリウス(天狼星)に由来し、通常7月から8月にかけての、余りに暑すぎて何もできないような夏の最も暑い時期を指す。しかし「dog days of summer」はまた、ヘルスケア改革法案の現状を要約するのに適しているようだ。

少なくとも今月は、ブルー・ドッグ(Blue Dog)が注目を浴びた月だった。下院草案に対する彼らの反対は、下院の最終案の進捗を遅らせたが、一方で妥協案を盛り込ませることに成功した。

面白いことに、民主党保守派を意味するブルー・ドッグ・デモクラットは、PhRMAの社長兼CEOであるBilly Tauzinと関係している。Tauzin氏は1980年からルイジアナ州選出の民主党下院議員を務めた。80年代中盤に、ルイジアナの画家George Rodrigue氏が青い犬の絵を描き始め、後にこのシリーズは有名になった。Tauzin氏はその後、自らをブルー・ドッグと呼ぶ保守派民主党員のグループを形成。ブルー・ドッグという名称は、1928年の大統領選で、ニューヨーク選出のAl Smith民主党候補が、忠誠心の強い民主党員をイエロー・ドッグと称したのと区別するためだ。南部の民主党員の多くがスミス候補の指名に反対する中、他の民主党員は非常に忠誠的であったため、「民主党であれば、黄色い犬にでも投票する」と言われた。 
対照的にブルー・ドッグは、そのような忠誠心は持たない。Tauzin氏はその後、共和党に鞍替えまでした。

何にしても、ヘルスケア改革法案への投票は、下院でも上院でも9月まで行われないことは明らかだ。上院の財政委員会からの草案など、今後進捗があるのかどうかはまだわからない。

2009年7月22日水曜日

一周してIMACの登場

特に保守系民主党員を中心とした、現在の草案では長期にわたる費用抑制効果があまりないとの懸念を表明している議員らに対しヘルスケア改革法案への支援をてこ入れしようとする中で、オバマ政権は現在、メディケアの年間支払いレートやその他の改革に関する勧告を行う権限を持った、独立メディケア諮問委員会(Independent Medicare Advisory Council、以下IMAC)の創設を提案している。

これは、オバマ大統領が保険福祉省(HHS)長官とホワイトハウスのヘルス改革オフィス(White House Office of Health Reform)ディレクターの両ポストに当初指名していたトム・ダシュル前上院院内総務が、連邦健康理事会(Federal Health Board)の創設を支持していたことを思い起こさせる。連邦健康理事会は、連邦準備基金(Federal Reserve Board)をモデルとした、ヘルスケア政策に関する意思決定を行う権限を持った独立機関として構想されていた。ホワイトハウスのラーム・エマニュエル主席補佐官の兄で、現在、行政管理予算局(OMB)のピーター・オーザック局長のヘルスケア・アドバイザーを務める国立衛生研究所(NIH)のエゼキエル・エマニュエル博士もまた、連邦健康理事会の創設を支援していた一人だ。

ダシュル氏が去った後は特に、連邦健康理事会の構想には将来的な展望はあまりなかった。議会によるメディケア政策への干渉は、質の高い、費用対効果の高いヘルスケアシステムの構築という大きな目標のためというよりも、狭い政治的な関心を満たすものであることが多いことは認めるとしても、政治的プロセスから意思決定を疎外し、その代わりにそれをいわゆる「専門家」の手にゆだねるのは、結局、本質的に非民主的だ。

連邦健康理事会の構想は頓挫したかに見えるものの、ジェイ・ロックフェラー上院議員は、連邦健康理事会と同様の役割を果たすことができるように、メディケア費用諮問委員会(MedPAC)の権限拡大を提案、これはオバマ政権にも受け入れられた。しかし、下院案にも、上院の米上院健康・教育・労働・年金委員会(Health, Education, Labor, and Pensions Committee、HELP委員会)案にも該当する条項は含まれていない。

今、IMAC構想は明らかに勢力を増しており、事態はふりだしに戻ったように見える。名称の変更はこの構想をより受け入れやすいものにするかもしれないが、連邦健康理事会との相違は単なる見た目の問題だけではないようだ。連邦健康理事会とは対照的に、IMACの政策立案権限は、政治的プロセスから部分的にしか隔離されていない。オーザックOMB局長はこのプロセスを、ナンシー・ペロシ下院議長に宛て先週送付した書簡で説明している。

提案された法案では、IMACによる勧告について大統領が一括して承認もしくは非承認することを要請する。大統領が勧告を受け入れた場合、議会は30日以内に両院合同決議による介入を行う。議会の介入がなければHHS長官により勧告は実行に移される。大統領がIMACの勧告を入れない場合、もしくは議会が両院合同決議を通過させた場合、IMACの勧告は無効または取り消しとなり、現行法が引き続き適用される。もしIMACによる改革案が議会または大統領の定める目標に沿っていない場合には、毎年のメディケアによる支払いレートの更新やその他のメディケア改革に関するIMACの自治権を維持しながら、審査プロセスに介入することが許されている。

現在、議会はもしMedPACの勧告に同意し、その法制化を望む場合には自ら行動する必要がある。対照的に、IMACでは、議会はもしIMACの勧告が法として施行されるのを事前に阻止したいなら、行動を起こす必要がある。あらゆる活動において議会が合意にいたることが困難であることを考えれば、この条項自体はIMACを政治プロセスから少しの間効果的に切り離し、少なくとも表面的にはIMACを議会の監視対象にする。オバマ大統領がヘルスケア改革に関する今晩のプレス発表で、IMAC構想を持ち出すかどうかに注目しよう。

2009年7月17日金曜日

上院議会委員会のタイムテーブル、大幅に遅れる

7月15日、上院の予算委員会公聴会において、米連邦議会予算事務局(CBO)ディレクター、ダグラス・エレメンドルフ博士は、これまで言及しなかった新しいことには特に触れなかった。それでも同氏は、ウォールストリート・ジャーナル紙のトップページをはじめとする、多くのメディアのヘッドラインを飾った。予算委員会委員長のケント・コンラッド上院議員の質問に答えて同博士は、「これまで報道されているような法案からは、連邦政府のヘルスケア支出の(上昇)曲線を大幅に減額するのに必要な基本的な変革は見えてこない」と述べた。これは前回のブログでも触れた。
ヘッドラインに現れたエレメンドルフ博士の発言は、主として議会内の、また民主党議員にすらも現れている、ヘルスケア改革の行方に関する途方もない緊張関係を反映したものだ。オバマ大統領は今週、議会の代表者らに対し、ヘルスケア改革法案の作成を前進させるよう強く促し始めた。上院財政委員会のマックス・バウカス委員長は依然として両党からの支持を取り付けようと模索しているが、今までのところ膠着状態となっている。オバマ大統領からの圧力により、バウカス上院議員は再度、今週には同委員会の法案を発表すると述べた。しかし同委員会からの法案は提出されず、来週に提出するとの約束と共に、今週もまた終ろうとしている。もしバウカス氏が今後の交渉により、同委員会の共和党リーダー、チャック・グラスリー議員の支援を取り付けた妥協案を作成することができるならば、待つだけの価値はあるだろう。しかし時間の経過につれ、議論は深まるばかりで、8月の休会以前に法案を通過するチャンスは消えていくように見える。

2009年7月10日金曜日

長期的に見れば皆死んでしまう

オバマ大統領は保険未加入者の健康保険加入拡大に関連するより多くの財政支出は、他の部分での支出削減と場合によっては高所得者への付加税などから得られる収入によって賄われるようになるとし、同政権のヘルスケア改革が予算中立的になると公約した。
もちろん、オバマ政権は、質が高く費用効率の高い医療ケアを提供するためのインセンティブを作る保険提供システムの改革も導入したい考えだ。プライマリケア医が様々な設定において医療ケアを調整することで支払いを受けるメディケア受給者に向けた「メディカル・ホーム」の構築、支払いを一括にすることで救急処置後の調整を行ったり再入院のリスクを減らすインセンティブを病院に提供したり、プライマリケア医や専門医、病院のネットワークがメディケア受給者への医療ケアや費用に共同で責任を持つ、患者に対する責任の視点に立ったケアを行う組織(Accountable Care Organizations)の構築など、すべての案は医療の質を改善し、費用を削減する可能性を持つ。しかし、本当に実現するだろうか?このような改革をヘルスケアシステムのいたるところへ適用することの実行可能性については試されたことがない。確かに、米連邦議会予算事務局(CBO)には潜在的予算の節約、もしくはこのような改革の特徴の詳細を見積もるのに十分な証拠がない。
長期的には、こうした改革の構造は検証され、ヘルスケア・システムの全体を通じて導入されるようになり、ケアの質や効率性を報いる医療提供者へのインセンティブは、ヘルスケア支出の高騰を減少させ始めるかもしれない。しかしジョン・メイナード・ケインズの著名な言葉、「長期的に見れば我々は皆死んでしまう(In the long run, we are all dead)」が示すように、ヘルスケア・システムにおける節減が現実化するかどうかを待ち続ける余裕が我々にあるかどうかは、疑問のままだ。
たとえ議会がヘルスケア改革法案をひねり出すことに成功し、例えばメディケイドの拡大を遅らせることで、その費用支出を3、4年は行わずに済むことなどから、向こう10年の予算的な中立が望めるとしても、10年を超えたその先の予算的中立が難しいのは確実だ。しかし、こうした支出を加算したとしても、CBOは、メディケアやメディケイドがその主要な推進力となっている現在の政府の支出の軌跡は、今後維持不可能であることを明言している。先月発表されたLong-Term Budget Outlookによれば、CBOは、医師へのメディケア支出が今後削減されす、代替的最小課税制度がインフレを指標とするという現実的なシナリオにおいて、米国の赤字は増加すると予測した。


このシナリオでは、グラフが示すように、連邦赤字は2023年にはGDPの100%を超え、2030年には140%、2038年には200%に達する。メディケア・メディケイドへの支出を削減しなければ、この恐ろしいシナリオを回避する現実的な方法は増税しかない。厳しい現実との対峙は強力な支持者を退ける危険があるため、議会はこの問題を用心深く取り扱っているが、残された時間はあまりない。

2009年7月2日木曜日

比較効果研究資金の分配

2月に立法化された景気対策法案(The American Recovery and Reinvestment Act of 2009 、ARRA)には、比較効果研究に11億ドルの予算が含まれている。このうち連邦医療研究品質局(AHRQ)には3億ドル、国立衛生研究所(NIH)には4億ドルが充てられた。残りの4億ドルは、保健福祉省(HHS)長官室に割り振られることになっていた。HHS長官は、この資金をどう割り振るべきだろうか? それが、米国科学アカデミー医学院(IoM)と比較効果研究に向けた連邦調整委員会(以下カウンシル)それぞれが構成した2つの委員会が連邦議会より問われた質問であった。カウンシルは、ARRAにより主要連邦ヘルス機関の各代表によって構成されたグループである。昨日、両委員会はそれぞれ勧告を発表した。IoMレポート要旨はここで見ることが出来る(National Academies Pressのウエブサイトに登録することでPDFのレポート完全版のダウンロード可能)。カウンシルのレポートは、ここで読むことが出来る。6月30日付けNew England Journal of Medicine(NEJM)には、IoMの勧告についての論説記事カウンシルの勧告についての論説記事が掲載されている(いずれも会員ログインが必要)。

どちらの勧告にも、少なくとも私にはいくばくかの驚きを禁じ得ないところがあった。例えばIoMの勧告 では、心血管疾患など特定の疾患の優先研究課題が挙げられているものの、委員会が推奨した優先課題のほぼ四分の一はヘルスケア供給システム研究領域に属するもので、結果の頒布、ヘルスケアにおける行動様式およびケア・マネージメント、ケアのセッティングの比較など、幅広いカテゴリーを含むものである。その中には、例えば「医療従事者の証拠に基づいたガイドライン遵守と患者のガイドラインに基づいたの慢性疾患治療計画遵守を向上させるため、意志決定を支援する機能や電子カルテ、パーソナル・ヘルス・レコードを使った、ヘルスケアシステムに関する代替的な再設計戦略の効果を比較」するというものもある。

一方カウンシルは、HHS長官の資金の多くを建物や長期的な管理請求のデータベース拡大と統合化、事務データと電子カルテベースあるいはレジストリのデータのリンク化など、比較効果データのためのインフラ開発に充てることを推奨している。ここに共通するのは、ヘルスケア・システムのためにデザインが練られた、電子カルテを中心とするITインフラの必要性である。

2009年7月付McKinsey Quarterly掲載のカイザー・パーマネンテのシニア・エグゼクティブであるHal Wolf氏のインタビュー記事(要ログイン)は、カイザー・パーマネンテの電子カルテデータベースであるKP HealthConnectは、カイザーがベスト・プラクティスを識別し浸透させることを可能にしたという。Wolf氏は、「我々は治療ガイドラインにおける小さな変更が、どのように治療アウトカムに多大な影響を及ぼすのかを調べたり、ある患者人口に向けて最適な治療方法を決定するために、特定の併存疾患を抱える患者群の研究を行うことが可能です。」と述べている。

最近Health Affairs のオンライン版で出版された記事において、Ari Hoffman氏とSteven D. Pearson氏は「周辺医療」の役に立つコンセプトを、比較効果研究によって明らかにされる可能性がある無駄の原因として提示した。彼らは4つの周辺医療の証拠に関連したカテゴリーをあげている。それは、1)適応症の比較純便益の不十分な証拠、2)確立された純便益の範囲を超えた使用、3)確立された便益がその他の選択肢よりコストが高い場合、そして4)漸増便益がその他の選択肢よりも比較的コストが高い場合の4つである。3)と4)のカテゴリーは、費用対効果に対処したもので、主に比較費用対効果の問題が今も喚起する論争を理由として、IoMおよびカウンシルの推薦事項が細心の注意を払って避けているものである。 費用対効果が高くないとみなされた医薬品は、保険のカバーに制限があるイギリスのNICEシステムの米国版設立は、製薬業界が最も避けたいことである。

しかしながら医療介入の広い背景において、米国ヘルスケア支出のおよそ11%を占める医薬品処方は、とりわけ代替手段が、支出増加の二大要因である医師による処置あるいは入院であった場合、しばしば費用対効果は高いと立証される。例えば、New England Journal of Medicineのオンライン版で出版されたパートD処方箋医薬品ベネフィットの導入前と後のメディケア受給者の医薬品支出およびその他の医療関連支出についての新しい研究(要ログイン)によると、パートD導入以前に処方箋薬の保険カバーがまったく無かったか、限られたカバーしかなかった受給者は、パートD取得後は医薬品により多く支出したが、その他の医療費は減少した。 米国における比較効果研究を重視する現状にあっても、医薬品に限らず、治療の対費用効果が体系的に保険カバレッジと償還決定に組み入れられるのは、時間の問題である。対費用効果問題に対処するための臨床開発プログラムをデザインする製薬企業は、異なるケアのあり方を考慮に入れて、たとえ次なる時代への移行が現在のヘルスケア改革が予想しているよりもさらに時間がかかり、困難なものであったとしても、米国ヘルスケアシステムの次なる時代をペース配分よく生き残っていくことになるだろう。