ムースコール

2009年11月8日日曜日

Brent James博士とIntermountain Healthcareにおける継続的な質の改善

昨日のニューヨーク・タイムズ紙に、David Leonhardt記者による、Intermountain Healthcareのヘルスケア提供アプローチに関する素晴らしい記事が掲載された。(こちらから読むことができます。)Intermountain Healthcareについては以前にも当ブログで触れたが、弊社は今年初め、弊社発行物「米国製薬業界週報」の取材でIntermountainの主導者の1人にインタビューを行っているため、そのアプローチ自体は、私たちにとって特に目新しいものではない。しかし、この記事の記者はその他の視点に深く配慮し、Intermountainのアプローチを医師に採用させることの難しさを強調した。
Brent James博士の指揮の下、Intermountainは、質の高いトヨタの製造アプローチを取ったのとほぼ同様の方法で、質の高いヘルスケアの提供アプローチを行う。同じ病状で来院した患者を治療する際に、各医師により生じる処置の差異を減らし、そして継続的に、患者の治療アウトカムをより改善させるような治療プロトコールに改良していく。このアプローチに対する批判としては、自動車の製造とは異なり、患者は個々に異なるため、フリーサイズのアプローチは、患者によっては最適とはならないケアを受ける結果となる可能性がある。
Intermountainはしかしながら、患者によっては標準プロトコールから離れた治療が必要な可能性があることを認識している。Intermountainの観点では、医師の経験とトレーニングが最も価値を持つのは、そういったケースを判別する能力にこそある。John Wennberg博士とダートマス大学の博士の同僚はしかしながら、適当と認められていない医師の自由裁量による治療は、米国ヘルスケア・システムで提供される高コストと低クオリティーなヘルスケアの説明となることを、繰り返し示している。
Intermountainのアプローチの鍵の一つは、結果を評価できることにある。それは、その電子カルテ(Electronic Medical Record、EMR)システムによって可能になった。オバマ政権が、病院や医師によるEMR導入のイニシアチブをこれほどまでに強調してきた理由の一つは、そこにある。医療提供の方法を変えることなくEMRを導入することは、質の向上とはならないが、EMRを通じてアウトカムを追跡できるようになることは、非常に重要なステップとなるかもしれない。それは、医師に対し最適治療の導入の説得するための証拠の基盤を提供することとなるだろう。

下院、ヘルスケア改革法案を承認

米国連邦議会下院は土曜日、220対215で下院版のヘルスケア改革法案を承認した。39人の民主党員が反対に投票し、ルイジアナ州選出Ahn “Joseph” Cao下院議員が唯一の共和党員として賛成票を投じた。
下院投票は重要なマイルストーンであるものの、最終的な法案の形成に最も重要となるのは、上院が承認できるものはどんなものであるかということだ。今週、上院多数党リーダーHarry Reid議員は、上院版の法案を発表することが見込まれている。それはおそらく、Max Baucus議員が中心となってまとめられ、上院財政委員会が承認したものに似た、新設となる保険エクスチェンジで保険未加入の中間所得層が保険を購入する際の援助が下院版と比較して多くないものとなるだろう。
下院版の法案が上院を通過する可能性は非常に低いものの、やがてまとめられることになる、より保守的な予算の上院版法案は、下院の保守系民主党員に訴えるものとなり、十中八九、下院を通過するだろう。多くの保守系民主党員は、去る土曜日に下院版法案に反対票を投じている。

2009年11月5日木曜日

針に糸を通す

先週は、多数党院内総務ハリー・リード上院議員による上院版のヘルスケア改革法案の発表が見込まれていた。しかし今日になって、今週中の発表もないとの見方も出てきた。遅延の明確な理由は開示されていないが、法案施行のコストを抑える必要性と、現在健康保険を持たない比較的健康な中間所得層を引き付けるのに十分な価格に保険料を抑える必要性とのバランスをとるのに、同議員は苦慮していると思われる。

例えば、ボーカス法案に対する批判の一つに、中間所得層に対する保険購入のための援助が十分でないとするものがある。それは、援助を制限することが法案全体のコストを下げることに貢献しているにも関わらずである。例えば4万ドルから5万ドルの年収がある個人にとって、新たに設立される保険エクスチェンジを通じた保険加入には、年間およそ5,000ドルが必要になると見込まれている。実のところ、新法によって保険プランは既往症によって保険加入を拒否できなくなるため、病気になったとわかってから保険に加入することを防ぐものは何もない。そのため、保険加入のインセンティブは殆ど無いと米国民が感じる可能性がある。

個人の保険加入を義務化して保険に加入しない個人に高額のペナルティを課すことは、「タダ乗り」問題を回避できるかもしれないが、連邦議会の民主党リーダー等は、保険に加入しない中間所得層に高額ペナルティを課すことには消極的である。とりわけ、保険が経済的に容易に加入できるものとみなされない場合は、ペナルティ設定には躊躇するだろう。高額ペナルティは政治的に不人気ともなる。しかしながら低額のペナルティは、保険加入のインセンティブとして十分なものとはならないだろう。

一つの可能性として、現在保険に加入していない、比較的若く健康なアメリカ人は、保険エクスチェンジに加入しないことになるかもしれない。そして、保険プールはヘルスケアコストがより高額な、比較的不健康なアメリカ人によって形成されることになり、結果として平均保険料を押し上げることになるだろう。平均保険料の上昇に従って、保険エクスチェンジに参加するアメリカ人は、さらに少なくなるかもしれない。

このような事態を回避するために、リード上院議員は個人保険加入義務化に関する援助とペナルティの程よいバランスをとり、それを法案施行の全体コストを抑えながら実現する必要がある。これはまさしく、糸を通すのがとても難しい針といえるだろう。