ムースコール

2009年8月28日金曜日

ケネディ上院議員死去 先行き不安なヘルスケア改革法案の運命

 46年間に渡って連邦議会上院議員を務めた民主党の重鎮、エドワード・M・ケネディ氏が8月25日夜に死去した。享年77歳であった。同氏は、上院健康・教育・労働・年金委員会(HELP)委員長として、自身が信条とするヘルスケア改革の実現に向けて奔走した。同氏を失った今、連邦議会におけるヘルスケア改革法案の運命は、さらに危ういものになっている。
 昨年5月に悪性脳腫瘍の診断を受けて以来、ケネディ氏はワシントンDCを留守にする機会が増え、HELP委員会の業務は、自身の友人で民主党議員のクリストファー・ドット氏に託された。
 ドット氏の統率の下、HELP委員会は7月15日、ヘルスケア改革法案を可決したが、それ以来上院では取り組みがこう着状態に陥っている。その一方で、上院財政委員会を率いるマックス・バウカス委員長が、同委員会有力メンバーのチャールズ・グラスリー議員やその他共和党議員の支持取り付けが見込まれる、重要な財政的条項を含んだ法案の作成に努めている。
 しかし、超党派的な調整は、ヘルスケア改革に対する保守派の強い反対を受けて難航している。保守派はヘルスケア改革法案を、政府によるヘルスケアシステムの支配を許すものとして捉えている。ヘルスケア改革を巡る問題は、多く保守派有権者の反対を招いているため、法案可決に向けた民主党員との調整努力は、2010年に再選を目指すグラスリー氏にとって不利に働く可能性がある。
 バウカス上院議員は、グラスリー上院議員や他の共和党議員との妥協点模索に費やす期限を9月15日としている。調整がつかない見通しは高く、その場合、法案成立の手段として、「調整措置(reconciliation)」と呼ばれるプロセスが発動されるかもしれない。調整措置が行使されれば、通常60票必要な議事妨害回避が51票で可能になる。
 しかし、調整措置は、予算関連法案に関する上院審議の行き詰まりを防ぐために設けられたものであるため、ヘルスケア改革条項のうち、連邦予算には無関係な、民間保険市場改革などの条項には適用されない。このため、それらの条項を、別途新法案としてまとめた場合、その法案の可決には通常の60票が必要となる。  
 ケネディ氏の死去により、民主党の上院議席数は59となった。そして、病身であるロバート・バード議員の留守により、上院で民主党が占める実質上の議席数は58席のみである。
 上院におけるヘルスケア改革法案の運命は、ケネディ氏の後任に誰を据えるのかという問題を浮き彫りにしている。マサチューセッツ州法によれば、上院議席に欠員が発生した場合、その145~160日後に議員選出のための特別選挙が開催される必要がある。同州では臨時の議員指名を行うことができないため、向こう数ヶ月の重要な時期において、議席は空席のままとなる。
 しかし、ケネディ氏は死去前に、マサチューセッツ州の州議会議員に対し、同法を改正し、特別選挙が開催されるまでの期間については、デバル・パトリック同州知事(民主党)に臨時で後任者を指名する権限を持たせるよう要請していた。2004年以前には、マサチューセッツ州法の下、州知事は空席となった上院議員の議席に後任者を指名する権限を有していた。この旧法を改正したのは民主党である。同年に開催された大統領選において、ジョン・ケリー前上院議員が勝利した場合に、共和党のミット・ロムニー前知事が、後任者に共和党議員を指名するのを回避したかったためである。しかし、今になって旧法に戻るというのは、批判を呼ぶことになるだろう。
 リベラル派として知られるケネディ上院議員は、重要な法案の可決において、保守的な共和党議員らと共に超党的な調整を実現する手腕で知られた人物でもあった。ここ数ヶ月間に渡り、同氏が上院を留守にしたことで、ヘルスケア改革法案を巡る共和党との調整が難航したのは言うまでもないだろう。HELP委員会の取り組みと、ケネディ上院議員の遺産ともいえる法案を救済できるかどうかは、全て、他の議員の手に委ねられている。

*本稿は、MSAパートナーズ発行の「米国製薬業界週報」2009年8月28日号行政記事として掲載されたものです。

2009年8月21日金曜日

公的オプションとヘルスケア共同組合

オバマ政権は連邦政府がスポンサーとなって運営するヘルスケアプランを各州の保険エクスチェンジを通じて提供し、民間の保険プランと競合させようとする公的オプションの支援から撤退することで、懸念の緩和を模索するのに今週の前半を費やした。

公的オプションはヘルスケア改革において最も賛否の分かれる問題となっている。反対派は、公的オプションは販促や、医療提供ネットワークとの間で償還レートを交渉する費用を負わないため、保険料を民間保険会社より低く設定することが可能なことから、それにより民間保険市場を弱体化させると主張する。しかし私は、公的プランが保険加入者を惹きつけることにおいて、必ずしも不公平に高い競争優位性を持つとは簡単に結論できないと思う。観測筋が指摘しているように、公的プランが不均衡に多数の非常に重篤な病人の加入を招き、そのためより高額な医療費を負い、特に、もし加入者の健康度によるリスク調整が、より高額な医療費をカバーするのに十分でない場合、民間保険プランよりも高い保険料の設定に直面する可能性がある。

言うまでもなく、公的プランは必ずしも反対派が主張するような民間プランに対する大きな競争的脅威にはならないかもしれない一方で、ヘルスケア改革の複雑性を説明する困難さに鑑みれば、反対派はヘルスケア改革の問題を医療の現場に対する連邦政府のさらなる侵入という単純化した図式にすることに今のところ成功している。それゆえ、新しい保険プランの提供における連邦政府が果たすかもしれない役割を超えたところへ議論を動かすため、オバマ政権は公的オプションを重要視しない方向性を探っている。

オバマ政権のこうした動きは、公的プランによる競争的圧力がなければ、民間保険会社は支出増大の抑制を強いられることがないと考える公的オプションの支持者の怒りを買っている。しかし、メディケアパートD処方箋医薬品給付プログラムにおける民間保険会社の経験は、たとえ公的オプションがなくとも、民間プラン同士の競争が価格低下の圧力として働いていることを示している。

公的オプションの代替案として、民間プランと競合する組織として非営利ヘルスケア共同組合(healthcare cooperatives)の促進が支持されている。実際、費用対効果の高い、質の高いケアの提供で知られる、シアトルを拠点としたGroup Health Cooperativeのように、成功した事例もある。問題は、こうした例は比較的稀で、共同組合をゼロから組織するには時間がかかる上、新しい共同組合が必要不可欠の加入者を集めて成功するか、地域の医療提供者との間で有利な償還レートの交渉に成功できるか、といったことには何の保証もない。
地域の民間保険市場の競合は現在、特に地方の場合、しばしば1社が独占的な位置を占めるといったように限られている。保険市場の競争の競争の欠如は、少なくとも一部に歯こういった地域における医療提供者の相対的な不足に根ざしているため、保険市場の改革により競争性をもたらそうとしても、ほとんど、またはまったく影響をもたらさないまま終わる可能性もある。いずれにしても、一部の著名な共和党員らはすでに共同組合に対しても反対の意を表明しており、ヘルスケア共同組合に賛成して、公的オプションを捨てるというのは、共和党の支持を得るための方策にはならないかもしれない。

現在の膠着状態にあってオバマ政権は、主要な共和党上院議員らの支持を得られるヘルスケア改革の方策はあるのだろうかと案じている。現時点では、ヘルスケア改革を2つの法案に分け、そのうちの1つは調整措置を利用して(8月7日「アラン・フルミンって誰?」参照)、民主党議員による51票だけで上院を通過できるという案についても話し合われている。この法案にはメディケイドの拡大や低所得給付者の健康保険料に対する補助金などといった新しい支出対策と、こうした計画の財源、またひょっとしたら公的オプションも含まれるかもしれない。上院を通過するのに、議事妨害を防ぐために60票が必要となる2番目の法案には、民間健康保険市場の改革が含まれるだろう。もちろん、オバマ政権は依然としてバウカス上院議員が上院の財政委員会において、共和党の支持を惹きつけるような、なんらかの妥協案をひねり出すことに期待しているが、妥協工作が実現しなかった場合に備えて、改革法案を押し通すための計画の準備も行っている。

2009年8月7日金曜日

アラン・フルミンって誰?

議会が夏の休会に向かう中、上院財政委員会のマックス・バウカス委員長は、同委員会によるヘルスケア法案の草案提出期限を9月15日とすると述べている。この日は、上院において通常議事妨害(filibuster)回避には60票必要なところを51票で可能にする「調整措置(reconciliation)」により、ヘルスケア改革法案を通過させることができる期間が失効する日のきっかり1ヶ月前であることから、非常に重要だ。

もしバウカス上院議員が9月15日までに共和党のグラスリー、スノウ、エンジ議員らとの合意形成に失敗した場合、民主党は調整措置が失効する10月15日前に同法案を通過させようとするだろう。

調整措置は1974年の議会予算法によって定められたもので、必要な予算関連法案に関する上院での議事妨害を防ぐために設けられた。しかし、法案を起草したロバート・バード上院議員にちなんでバード・ルールと名づけられたこの規則によれば、調整措置法において上院が予算と無関係の事項について審議することは禁じられている。要するに、支出や歳入の変更に結びつかない法案は、予算とは無関係とみなされる可能性がある。したがって、もし民主党が調整措置を利用してヘルスケア改革法案を上院で通過させようとすれば、いかなる上院議員も、たとえばヘルスケア改革法案の中心的課題である保険会社に対する要請などの条項について、それが予算とは無関係として異議を唱えることが可能だ。

そうなれば、異議の対象となっている条項が無関係かどうかの判断は、上院議員に議会運営手続き上の助言を行う、あまり知られていない、また選挙によって選出されていない役人である、上院のパーラメンタリアン(議会運営手続きの専門員)に委ねられる。もし上院のパーラメンタリアンが異議を支持すれば、該当の条項は法案から削除される。それゆえに、バード・ルールの下での一連の異議申し立ては、ヘルスケア法案から主要な条項を取り去るかもしれず、法案自体を意味のないものにしてしまうだろう。

ところで上院のパーラメンタリアンとはいかなる人物なのだろう?彼の名前はアラン・フルミン、ヘルスケア改革をめぐる戦いの中でスポットライトを浴びるようなことは最も避けたいと思っているだろう。