ムースコール

2009年9月18日金曜日

数で見るバウカスプラン

米連邦議会予算事務局(CBO)は火曜(9月15日)、同日の早い時間に上院財政委員会のマックス・バウカス委員長が提出した、「America’s Healthy Future Act of 2009」の予備分析結果を発表した。

良いニュースとしては、CBOによるとバウカス案は連邦赤字を2019年までの10年間で490億ドル削減する可能性があるということだ。2019年だけを見ても160億ドルの赤字削減を達成する。さらに、後には合計支出額が増加する下院委員会による法案とは異なり、給付対象の拡大に要する費用よりも、追加される歳入と経費節減がより速く伸張することが見込まれるため、バウカス案では2019年以降も連邦赤字を削減し続けると予測する。

節減は主に次の2つからもたらされる。1つはメディケア・アドバンテージを競争入札システムへと移行することで、民間プランに支払われる連邦政府の補助金を減らすことであり、もう1つは、医療提供者に対し、オフィス関連費用やその他の投入原価上昇を補償するためのメディケア支出における年次増額分である、メディケア・マーケット・バスケット方式における更新額を減らす、というものだ。現在、民間プランが平均してメディケア出来高払い(FFS)よりもかなり多くの支払を受けていることから、メディケア・アドバンテージにおける削減は十分に予測されていた。メディケア・マーケット・バスケット方式における更新額の減額は、累積した場合の影響こそ大きいものの、それ自体はそれほど深刻なものではない。

懸念されるのは、メディケアパートB下の医師への支払いに関する規定だ。1998年以来、メディケア全体における支出抑制を目的に、議会はメディケアによる医師への支払額の年次調整の数式に持続可能成長率(SGR)を取り入れた。この数式を順守すると、医師への支払額の削減は必至なため、議会は2003年以来この数式順守を繰り返し覆し、医師への支払い額の増額を許容してきた。しかしこの数式はこれまで完全に撤廃されたことはなく、したがってもし議会がその年にこの数式順守を覆さなければ、医師への支払額は、現行の支払いレートと元の数式によって算出された支払いレートとの累積差額分だけ、削減されることになる。バウカス案では、2010年に関し再びSGRを覆し、再度医師への支払額の増額を認めている。しかし、SGRの完全撤廃は行わないため、CBOが約25%と予測した医師への支払い削減が2011年から始まることになる。この削減については現行法の変更ではないため、CBOによって削減として換算されない。しかし問題は、議会が25%もの大規模な削減を許容すると現実に期待できるかどうかということだ。医師らは当然のことながらこのような削減を支持しないだろうし、導入にも反対するだろう。しかし、こうした支出削減なくしては、バウカス案が約束する赤字削減は幻想に終るだろう。

少なくともこれまでのところ、バウカス案の批判は別の問題に集中している。特に民主党議員の多くは保険エクスチェンジからの公的プランの選択肢が含まれていないことに反対している。一方共和党議員は、エクスチェンジに非営利健康保険組合が含まれていることに反対している。上院の少数党リーダーであるミッチ・マコネル議員に言わせれば、「(このようなものは)公的プランの別名に過ぎない」という。しかし、CBOの見解からすると、組合は問題ではないという。ダグラス・エルメンドルフCBOディレクターは、「提案されている組合案はエクスチェンジへの全体加入者数や連邦政府の支払う費用の試算にほとんど影響を与えなかった。というのもこれらが国内の多くの地域において、相当規模の市場プレゼンスを確立したり、連邦政府による補助金支出に目立った影響を与えるとは考えにくいからだ」と述べた。

しかし医師への支払い削減問題が注目を集め始めるのも時間の問題であり、私はバウカス議員もこれを承知していると考えている。おそらくバウカス議員の真の狙いは、大規模な削減を嵩に、医師らがFFSへ依存している状況から、一括支払いや、患者に対する責任の視点に立ったケアを行う組織(Accountable Care Organizations)への参加で採用することになる一人当たり支払いといった、別の支払いメカニズムを受容するよう追い込むことなのかもしれない。結局のところ、医療提供者に、メディケアFFSの代替となる選択肢から獲得しうる「褒美(にんじん)」について考えさせるために、支払い削減のムチを振るう必要があるかもしれない。

2009年9月9日水曜日

オバマ大統領の主張

昨夜、両院合同会議において行った演説で、オバマ大統領はヘルスケア改革の論理的根拠および大統領が支持するプランを提示した。そして大統領はまた、議会に提出された法案について、これまでに浮上してきた誤解の多くを解くことを試みた。
大統領案の概要は、先週末にバウカス上院議員が発表した案に非常に類似したものである。しかし、2つの大きな違いがある。まず、小企業には例外を設けるものの、大統領は雇用者の従業員に対する健康保険提供の義務化を推し進める構えである。第二に、各州に設立される保険エクスチェンジにおいて個人や小企業が選ぶことが出来る選択肢として、公的保険オプションを提供するという。公的保険オプション設立の理論的根拠の説明にあたり大統領は、様々な保険プランに意味のある競争が成立するかを懸念していると述べた。大統領は、保険市場の90%が一企業で占められているというアラバマ州を、例として挙げている。しかしながら大統領は公的オプションの重要性は余り強調せず、公的保険の設立を保険会社が経済的に手の届く保険を提供していない州にのみに限るとか、行政が運営するプランの代わりに非営利の健康保険協同組合を設立するなど、代替案を検討することにもオープンである姿勢を示した。
共和党の賛同を得る努力としてオバマ大統領は、ヘルスケア・コストを低減させる方法の一つとして共和党議員が繰り返し挙げている、医療過誤賠償責任の改革を考慮することにも積極姿勢を示した。これは、米国医師会(American Medical Association )も対処を望む課題であるが、これまで議会に提出された法案のどれもが取り上げていない。
演説の終盤、オバマ大統領はエドワード・ケネディ上院議員の言葉を引用し、ケネディ元上院議員はハッチ議員、マケイン議員、グラスリー議員を含む主要共和党委員とヘルスケアの課題について緊密に連携したことを再認識させた。オバマ大統領はヘルスケア改革の重要性を強く主張したが、昨夜の演説によって考えを変えた共和党員がいるかどうかは、まだ不明である。

2009年9月8日火曜日

さあ仕事だ

昨日のレイバー・デー(9 月7日、労働者の日)は連邦議会休会最終日であり、両院は本日から活動を再開した。休会中も仕事をしていた議員の一人は、マックス・バウカス上院議員であった。同議員は先週末、18ページに渡るヘルスケア改革法案の「大枠」を発表した。
その大まかなアウトラインは、おなじみのものである。法案は、ほとんどの米国民に対して、健康保険への加入を義務化している。州の健康保険エクスチェンジが設立され、その中で民間保険会社は個人および小規模企業向けの保険提供で競争することになり、収入が連邦貧困レベルの300%までの個人および世帯には保険加入料の援助を与え、収入が連邦貧困レベルの400%までの個人および世帯は、健康保険加入料の支払いが年収の13%を超えないようにする。(健康保険改革は)保険会社に対し、既往症を理由として保険加入を拒否することを禁じ、受給者の自己負担額に上限を設定することを要求している。またバウカス議員は、メディケイドの加入資格を、連邦貧困レベルの133%にまで拡大することを提案している。
これらの条項は、下院法案に類似したものであり、それほど議論を引き起こさないものと言える。下院法案と異なり、バウカス案には雇用者に従業員への健康保険提供を義務付ける「プレイ・オア・ペイ」条項は盛り込まれていないが、従業員が新たに設定される保険エクスチェンジを通じて加入した健康保険のための補助金を得た場合、その雇用者にフィーを課すことが定められている。
議会において共和党員や一部の保守系民主党員がヘルスケア改革で最も問題としているのは、エクスチェンジで提供される健康保険に、公的保険を含めるかどうかである。バウカス案は公的保険提供を含めていないが、エクスチェンジにおいて民間保険と競合することになる、非営利団体の健康保険協同組合の条項を含めている。
バウカス案のもう一つの新たな目玉は、ハイエンドの健康保険プランを提供する保険会社に、いわゆる消費税を課すことである。ハイエンドの保険とは、年間保険料が個人に対しては8,000ドル、世帯に対しては21,000ドルを超えるものと定義されている。ハイエンドの保険プランに課税する論理的根拠は、こういったプランは受給者を医療治療費負担から完全に遮断することになり、受給者に費用対効果の高い治療を求めるインセンティブがなくなるためとしている。この限度額を超えて保険会社が得た保険料に対し税率35%の支払いを保険会社に課すことによって、保険会社はそのコストをより高額な保険料の形で雇用者に転嫁することが予想される。よって雇用者は、そこまで手厚くない健康保険プランを提供することを選ぶかもしれず、そうなれば、自己負担が増える可能性に直面した従業員は、ヘルスケアサービスのコストに関する意識がより高くなるかもしれない。
たとえそのコストが、やがては従業員に転嫁されるとしても、雇用者よりも保険会社に税金を課す方が、政治的には、一見受けがよいように思われる。しかしそのようなハイエンドのプランを提供している雇用者や組合の中には、保険会社に頼らず保険リスクを自己で引き受けた保険を独自で提供しているところもあるが、そういった雇用者・組合も課税対象となる。さらに、保険料が高額のプランがすべて、過度な給付内容を提供しているわけではない。プランの中には、被保険者である従業員が平均的な保険受給者に比較してずっと高齢で病気がちであるがために、保険料が高額になっているものもある。
組合や公務員はこの資金調達オプションに反対かもしれないが、ヘルスケア・インフレ率を低くすることに貢献する可能性があるという長所があることも確かである。単純に高額所得者に課税するといった代替案は、収入は多くなるかもしれないが、ヘルスケア・コスト低減に何も寄与しない。
さらなる収入源を確保するために、市場占有率をベースとして幾つかの産業に属する企業に一括的な年間フィーを課すことも盛り込まれている。これには、製薬業界に23億ドル、医療機器業界に40億ドル、健康保険業界に60億ドル、臨床検査ラボに7億5,000万ドルが含まれている。製薬業界に影響があるその他の条項としては、メディケイドのリベートを23.1%に引き上げること、そしてメディケア・パートDのドーナツ・ホール内で購入された医薬品コストを製薬企業が50 % 割り引くことなどが含まれている。
バウカス法案が公的保険という選択肢を含んでいないことは、多くの民主党員の怒りを買うであろう。しかしながら、公的保険を排除した法案を発表することにより、バウカス上院議員は基本的には共和党員にはったりをかけているのだ。もし共和党員が同議員の非常に穏健なプランにさえ支持を拒むなら、同議員は、共和党員は最初から妥協案の成立に真剣ではなかったと主張するだろう。その一方で、もし共和党員が同議員の法案を受け入れたとすると、上院は超党派の支持を得て議会通過可能な法案を手中に得ることになるだろう。公的プランを含まないことは多くの下院民主党議員を遠ざけることになるかもしれないが、民主党員も共和党員も、公的プランに関しては、保険エクスチェンジで提供される選択肢に対するインパクトよりも、イデオロギー的な理由に焦点が集まっているように思われる。いずれにしても、今日・明日に渡るバウカス上院議員と上院財政委員会の主要共和党議員の折衝の結果は、水曜日夜にオバマ大統領が予定している演説に影響を与えるかもしれない。