ムースコール

2009年6月19日金曜日

下院、ヘルスケア改革法案草稿を発表

今日、ヘルスケア改革法案作成に取り組んでいる下院の3委員会(歳入委員会、エネルギー商業委員会、教育労働委員会)が、共同で852ページに渡るヘルスケア改革法案の討議草案を発表した。主要構成要素は聞き慣れたもので、保険エクスチェンジ、個人・雇用者の健康保険加入あるいは提供の義務などが含まれている。草稿には公的保険の創設も含まれているが、公的保険は民間保険と公平に競争することが求められており、保険加入料によって全資金をまかなうことになっている。

まったく予想せぬ事態というわけではないものの、製薬業界が歓迎しない条項も幾らか含まれている。例えば、2011年から製薬企業はメディケア・メディケイド二重資格者およびメディケア保険料の全額補助を受けている受給者による医薬品の購入に対して、リベートを支払うことが求められている。パートD導入前までは、メディケアとメディケイドに二重に加入できる資格を持っていた保険加入者は、メディケイドの給付を利用して処方箋薬を入手していた。製薬企業はこのルールの下、リベートを支払わなくてはならなかった。こういった保険加入者がメディケア・パートD処方箋薬給付プログラムに移行した際、製薬企業はこれらの加入者が購入した医薬品に対するリベートを支払わなくてもよくなり、予期せぬ利益を得た。下院草案は、この収入を消し去ってしまうことになる。さらに、来年から既存医薬品のリフォーミュレーションに対するメディケイド・リベートの計算方法が変更になり、求められるリベートの計算に既存医薬品とリフォーミュレーション薬剤を用い、高い方を採用することになる。この条項は、患者のためになる可能性のある価値が加えられたリフォーミュレーションへの開発意欲をそぐという、意図せぬ結果となるかもしれない。草案はまた、医師への支払い公開に関する条項も含まれている。

上院財政委員会も今週草案を発表する予定であったが、施行に要する費用を抑えようとしているために遅れることは確実だ。

2009年6月16日火曜日

オバマ大統領 「医師会の皆様、あなた方の助けが必要です」

オバマ大統領は昨日行われた米国医師会(AMA)の年次会における演説で、自身のヘルスケア改革案について、財源についての基本的アイディアも含めてその概要を語った。その殆どは比較的議論を起こすような性格ではなく、驚きに値するものではなかった。しかしこの演説は、オバマ政権発足以来、ヘルスケアに関する最も包括的な演説となった。ひとつ驚かされたのは、大統領がメディケア費用諮問委員会(Medicare Payment Advisory、MedPAC)の役割を――そしてその権威を拡大する提案を、暗に支援する声を上げたことであった。先月ロックフェラー上院議員は、MedPACをメディケア支払いレート設定の権威を備えた行政機関に変換させる法案を提出した。基本的にこの法案は、連邦健康理事会(Federal Health Board)設立のための、いわば裏口の方法のように思われる(ロックフェラー上院議員は、連邦準備制度理事会をモデルにするとまで語っている)。これは、支払い決定を議会の手から取り上げ、建前として政治的圧力から影響を受けない理事会の手に委ねるというものである。 議会がよろこんで権威を放棄する傾向はないため、私にはこの提案に行き着くところがあるとは思えない。

偶然にも昨日、MedPacは議会に年次報告を提出した。ここでは、患者に対する責任の視点に立ったケアを行う組織(Accountable Care Organizations)、メディケアにおける疾病管理デモンストレーション・プログラム(MSA発行の「米国製薬業界週報」今週号で取り上げられたトピックである)、メディケア・アドバンテージなどを含む、支払い改革に関連したいくつかの重要なトピックの有益な考察がされている。中にはMedPACがバイオ後続品(Follow-On-Biologics、FOB)について考慮している問題のいくつかを扱っている章もある。

さらに昨日、米連邦議会予算事務局(CBO)はケネディ上院議員が先週提出した法案の分析を発表した。同法案の連邦予算に対するコストが10年にわたって1兆ドルを超えるというCBO算出の試算は、大きな驚きとはならなかった。しかしながら、1兆ドルの支出を経た後も、非高齢者の13%にあたる3,700万人が、保険非加入者であり続けるとのCBOの見積もりに注目が集まった。先週提出されたこのバージョンの法案には、雇用主が雇用者に保険を提供しない場合に支払う罰金規定、メディケイド・プログラムの拡大、公的保険の追加など、鍵となる条項が含まれていないことがその理由の1つだ。これらは後になっての追加が見込まれている。こういった条項は、非保険加入者を減らすことになるが、もしメディケイド拡大コストが雇用主への罰金規定に関係したコスト削減分を超えた場合、法案のコスト上昇につながる可能性もある。

2009年6月12日金曜日

「比較効果研究」とは呼ばないで

今週連邦上院議会に提案された2法案は、比較効果研究の進展に弾みをつけるものだが、どちらの法案も研究の推進主体となる施設の名称に「比較効果研究」を使うことを避けている。上院財政委員会のマックス・バウカスおよびケント・コンラッド議員によって提出された法案は、もっぱらPatient-Centered Outcomes Research Instituteの創設を謳っている。一方のAffordable Health Choices Actは、上院の健康・教育・労働・年金委員会(Senate Health, Education, Labor, and Pensions Committee、HELP委員会)のテッド・ケネディ委員長により提案された法案で、先週末同議員が関係各所に伝えた骨子に肉付けした、より完全版に近いものだが、同法案では、連邦医療研究品質局(AHRQ)の中にCenter for Health Outcomes Research and Evaluationの創設を提案する短い条項が見られる。

これら施設の名称のどちらにも「比較効果研究」が全くないのはなぜだろう?総合的なヘルスケア改革法の成立を目指すオバマ政権を批判する人々は、比較効果研究の結果が、医師に対し患者の治療方法を押し付けたり、メディケアや他の政府の保険プログラムでの償還が「政府が認めた」治療方法に対してのみ行われるようになるといった主張で、反対勢力を動員しようとしてきた。

両法案とも、比較効果研究の結果が保険の償還や治療の選択肢の制限に使われることはないと強調することに苦心している。バウカス、コンラッド両議員による法案は、研究結果には「治療の指針、政策や給付に関する助言を含むべきではない」こと、また研究施設による報告書や研究結果は「義務や指針、支払いや保険のカバー範囲、治療に関する助言と解釈されるべきではない」と明言。同様にケネディ議員の法案でも、「研究センターによる報告書や助言は、支払いや保険カバー範囲、治療に関する義務と解釈されるべきではない」と述べている。

こうした相似性があるものの、両法案は非常に異なっている。ケネディ議員の掲げる研究センターは、主に現在AHRQが行っている業務の延長であり、予算や資金繰りの方法にはこれといった言及がない。対照的にバウカス、コンラッド両議員の法案では、医薬品や機器メーカーの代表を含む幅広い関係者から構成され、会計検査院長の指名を受けた理事会によって運営される非営利組織の創設が提案されている。同組織は1億5,000万ドルの年間割当金に、保険プラン提供者から徴収される公的・民間保険加入者1人あたり年間2ドルの課徴金を加えた、約7億5,000万ドルの年間予算が割り当てられる。さらにこの予算の最高20%までは、現在比較効果研究を行っているCochrane Collaborationなどといった組織への資金提供に利用可能だ。このような大規模予算によってバウカス、コンラッド両議員が掲げる研究施設は、大規模比較臨床試験を含む多くの比較効果研究に資金提供を行えるだろう。

2009年6月9日火曜日

悪魔は細部に宿る

ヘルスケア改革法案の大枠の取りまとめが目下進展している。どうやら法案には以下の要素が盛り込まれるようだ。

  • 個人の健康保険加入の義務化
  • メディケイドに不適格な低所得者に対する補助金支払いを伴うマサチューセッツ州のような健康保険エクスチェンジ
  • 雇用主に対する従業員保険の提供または従業員一人あたりに定められた罰金支払いへの義務化(ただし小規模事業者は控除)
  • おそらく範囲を狭めた公的保険を設置し、健康保険エクスチェンジにおいて民間保険と競合させる
  • メディケイドと 児童保険プログラム(SCHIP)の若干の規模拡張
  • 連邦政府の補助金削減を狙ったメディケア・アドバンテージのベンチマーク計算方法の修正
  • メディケアにおける、成果に基づく支払い(pay-for-performance)プログラムと一括割引支払い償還配置の拡張
  • メディケアでケア・コーディネーションを提供するためのプライマリケア医へのインセンティブ供与
  • 「患者に対する責任の視点に立ったケアを行う組織」(Accountable Care Organizations)に対する、メディケアシステム下の代替的償還システムの試験プログラムの実施

そして、これらの連邦政府プログラムの改革に加えて、製薬業界関連では後続バイオ製品に対して新たな動きがありそうな気配もあり、またブランド薬メーカーとジェネリック薬メーカーの間で結ばれた特許侵害訴訟の和解合意において、逆支払い(reverse payments)を禁じる法案が提出される可能性もありそうだ。

もちろん、この予想は外れる可能性もある。ヘルスケア改革の予言者としてのここ7ヶ月の私の実績は取り立てて傑出しているという訳でもなく、私の予想は、風向きの移り変わりで変遷してきた。昨年11月の選挙の直後、トム・ダシュル氏の名前が保健福祉省(HHS)長官の有力候補として大きく取り上げられた時、私はダシュル氏の連邦保険理事会(Federal Health Board)を創設するというアイデアが、オバマ政権のヘルスケア改革提案に盛り込まれることはあり得まいと考えていた。しかし数週間後に、ダシュル氏がHHS長官兼ホワイトハウスのヘルス改革オフィスのディレクターに指名され、ダシュル氏と『緊急:ヘルスケア危機に関して何ができるのか(Critical: What We Can Do About the Health-Care Crisis)』 で共同執筆したジーン・ラムブリュー氏がホワイトハウスのヘルス改革オフィスの副ディレクターに指名されると、私は考えを改め、彼らの本が改革法案の青写真となって、 連邦保険理事会も大きな役割を担うのだろうと考えた。その後数週間経って、ダシュル氏が指名を辞退すると、私はまた考えを改め、すべての過程が混乱状態にあると考えた。しかし、その後まもなくして、特にバウカス上院議員とケネディ上院議員を軸にした進展の兆候、そして合意形成の動きが現れ始めた 。

今となっては、連邦保険理事会のアイデアを語るのは、「いつもニコニコ」のチャールズ・グラスリー上院議員のみだが、彼の意図は、あくまでもこのアイデアに反対の立場をとっていることを知らしめることだ。(この立場は、素晴らしい
Kaiser Health Newsの新ウェブサイトに先週掲載されたインタビュー記事からも明らかだ。)

ヘルスケア法案の大枠がおおよそ決まったとしても、その法案の詳細事項も重要だ。先週末、ケネディ上院議員の事務所から、米国民のヘルスケアの選択に関する法案の「草案の草案」である、the American Health Choices Actが発表された。しかし、
この170ページにも及ぶ文章では、以下に記述するヘルスケア改革の2側面に単に注目したに過ぎない。その2側面とは、①健康保険の個人への義務化、および雇用主が保険を提供しない限り代わりに罰金を払う規定を伴った、保険エクスチェンジの創設(この文書内では「ゲートウェイズ(gateways)」と呼ばれている)と、②介護施設への入居あるいは訪問看護が必要になった個人に対して介護を提供する内容の、Community Living Assistance Services and Supports Act(CLASS法案)による新たな自主的保険プログラムの設置である。

ヘルスケア改革において最も不和を呼び起こす可能性のある問題の1つに、健康保険エクスチェンジにおいて民間保険と競合させる目的で公的保険を創設するかどうかの議論がある。The American Health Choices Actの草案では、HHS長官が創設し、メディケアの償還率に10%上乗せして医療提供者に償還するという「経済的に手の届く保険」について軽く触れられている。しかしこの公的保険についてはこれ以上の詳細事項は明らかにされていない。また、ケネディ上院議員の法案が財政赤字を増やさないようにするための収入源をどうするつもりなのかはまだ分からない。ヘルスケア改革は広く支持を得ているものの、こうした細部にこそ、改革への具体的提案への反論を呼び起こす火種が見え隠れしている。