比較効果研究資金の分配
2月に立法化された景気対策法案(The American Recovery and Reinvestment Act of 2009 、ARRA)には、比較効果研究に11億ドルの予算が含まれている。このうち連邦医療研究品質局(AHRQ)には3億ドル、国立衛生研究所(NIH)には4億ドルが充てられた。残りの4億ドルは、保健福祉省(HHS)長官室に割り振られることになっていた。HHS長官は、この資金をどう割り振るべきだろうか? それが、米国科学アカデミー医学院(IoM)と比較効果研究に向けた連邦調整委員会(以下カウンシル)それぞれが構成した2つの委員会が連邦議会より問われた質問であった。カウンシルは、ARRAにより主要連邦ヘルス機関の各代表によって構成されたグループである。昨日、両委員会はそれぞれ勧告を発表した。IoMレポート要旨はここで見ることが出来る(National Academies Pressのウエブサイトに登録することでPDFのレポート完全版のダウンロード可能)。カウンシルのレポートは、ここで読むことが出来る。6月30日付けNew England Journal of Medicine(NEJM)には、IoMの勧告についての論説記事とカウンシルの勧告についての論説記事が掲載されている(いずれも会員ログインが必要)。
どちらの勧告にも、少なくとも私にはいくばくかの驚きを禁じ得ないところがあった。例えばIoMの勧告 では、心血管疾患など特定の疾患の優先研究課題が挙げられているものの、委員会が推奨した優先課題のほぼ四分の一はヘルスケア供給システム研究領域に属するもので、結果の頒布、ヘルスケアにおける行動様式およびケア・マネージメント、ケアのセッティングの比較など、幅広いカテゴリーを含むものである。その中には、例えば「医療従事者の証拠に基づいたガイドライン遵守と患者のガイドラインに基づいたの慢性疾患治療計画遵守を向上させるため、意志決定を支援する機能や電子カルテ、パーソナル・ヘルス・レコードを使った、ヘルスケアシステムに関する代替的な再設計戦略の効果を比較」するというものもある。
一方カウンシルは、HHS長官の資金の多くを建物や長期的な管理請求のデータベース拡大と統合化、事務データと電子カルテベースあるいはレジストリのデータのリンク化など、比較効果データのためのインフラ開発に充てることを推奨している。ここに共通するのは、ヘルスケア・システムのためにデザインが練られた、電子カルテを中心とするITインフラの必要性である。2009年7月付McKinsey Quarterly掲載のカイザー・パーマネンテのシニア・エグゼクティブであるHal Wolf氏のインタビュー記事(要ログイン)は、カイザー・パーマネンテの電子カルテデータベースであるKP HealthConnectは、カイザーがベスト・プラクティスを識別し浸透させることを可能にしたという。Wolf氏は、「我々は治療ガイドラインにおける小さな変更が、どのように治療アウトカムに多大な影響を及ぼすのかを調べたり、ある患者人口に向けて最適な治療方法を決定するために、特定の併存疾患を抱える患者群の研究を行うことが可能です。」と述べている。
最近Health Affairs のオンライン版で出版された記事において、Ari Hoffman氏とSteven D. Pearson氏は「周辺医療」の役に立つコンセプトを、比較効果研究によって明らかにされる可能性がある無駄の原因として提示した。彼らは4つの周辺医療の証拠に関連したカテゴリーをあげている。それは、1)適応症の比較純便益の不十分な証拠、2)確立された純便益の範囲を超えた使用、3)確立された便益がその他の選択肢よりコストが高い場合、そして4)漸増便益がその他の選択肢よりも比較的コストが高い場合の4つである。3)と4)のカテゴリーは、費用対効果に対処したもので、主に比較費用対効果の問題が今も喚起する論争を理由として、IoMおよびカウンシルの推薦事項が細心の注意を払って避けているものである。 費用対効果が高くないとみなされた医薬品は、保険のカバーに制限があるイギリスのNICEシステムの米国版設立は、製薬業界が最も避けたいことである。
しかしながら医療介入の広い背景において、米国ヘルスケア支出のおよそ11%を占める医薬品処方は、とりわけ代替手段が、支出増加の二大要因である医師による処置あるいは入院であった場合、しばしば費用対効果は高いと立証される。例えば、New England Journal of Medicineのオンライン版で出版されたパートD処方箋医薬品ベネフィットの導入前と後のメディケア受給者の医薬品支出およびその他の医療関連支出についての新しい研究(要ログイン)によると、パートD導入以前に処方箋薬の保険カバーがまったく無かったか、限られたカバーしかなかった受給者は、パートD取得後は医薬品により多く支出したが、その他の医療費は減少した。 米国における比較効果研究を重視する現状にあっても、医薬品に限らず、治療の対費用効果が体系的に保険カバレッジと償還決定に組み入れられるのは、時間の問題である。対費用効果問題に対処するための臨床開発プログラムをデザインする製薬企業は、異なるケアのあり方を考慮に入れて、たとえ次なる時代への移行が現在のヘルスケア改革が予想しているよりもさらに時間がかかり、困難なものであったとしても、米国ヘルスケアシステムの次なる時代をペース配分よく生き残っていくことになるだろう。
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