ムースコール

2009年12月15日火曜日

上院60票を確保する

報道によると、昨夜上院民主党議員58人が、ヘルスケア法案について合意を得ることを目的として、民主党幹部会の独立系議員であるBernie Sanders、Joe Lieberman両議員と非公開の会議を持った。Joe Lieberman議員の支持を確保し、またフィルバスターを回避するために必要な60票を得るために、民主党は先週合意に至った、55歳から65歳の年齢層にメディケアを限定的に拡大する案と、公的保険に対して民間のアプローチを採用する案を廃棄しなくてはならなかった。

当初から保守系民主党員の中には、個人および小規模企業に健康保険を提供するにあたり、新たに設置される保険エクスチェンジにおいて民間保険と競合する、政府が運営する健康保険、いわゆる「公的保険」設立への反対の声があった。先週、上院民主党議員グループは妥協案を作成、政府運営のプランに代わり、ホワイトハウス人事院が民間保険会社提供による全国規模の健康保険プランを監督するという案に至った。これは、現在の連邦職員のための健康保険ベネフィットのようなものだ。さらに、55歳から65歳の年齢層の特定の受給者はメディケアに加入することが出来ることとした。ただしこの場合、加入者の保険料は必ずしも政府援助を受けない。

しかしながら去る週末、Joe Lieberman議員はそのようなメディケアの拡大は支持しないことを示唆、民主党はフィルバスターを回避するに必要な票を確保できなくなった。Lieberman上院議員の支持を取り付けるためには、上院民主党は先に合意に至った限定的メディケア拡大を含め、公的保険プランを完全に放棄することも辞さないようだ。まだ乗り越えなくてはならないハードルはあるものの、上院はクリスマス前に法案を通過させるに必要な60票を確保したようである。そうなると、ヘルスケア改革法案の今後の行方は、下院と上院の法案を来月に最終法案に調節する両院協議会次第ということになる。

2009年12月4日金曜日

上院のヘルスケア法案で、保険料は上がる?下がる?

米国連邦議会予算事務局(CBO)は11月30日(月)、上院が提案している健康保険料に関する法案の分析結果を発表した。民主党と共和党は共に、ヘルスケア法案における各々の立場を強化するのに、この報告書の結論を利用しようとしている。民主党は、個人または家族向けプランを雇用者を通さず独自に購入している非グループ保険市場加入者は政府からの補助金の影響を考慮すれば、平均で今よりも低額の保険料を支払えばよくなるとの点を強調している。一方共和党は、政府からの補助金の影響を除けば、非グループ保険市場での保険料が上がる点を強調する。

両者ともその立場は間違ってはいないが、非グループ保険市場は、ヘルスケア改革の下では拡大するものの、保険市場全体においては、依然として比較的小さなシェアに過ぎないことも強調されるべきだろう。非高齢者の大多数は、雇用主を通じて保険を取得する。70%が大規模グループ保険市場、13%が小規模グループ保険市場*で、そして17%のみが非グループ保険市場で保険に加入し、非グループ保険市場の保険プランは新規の保険エクスチェンジを通じて購入される。CBOの分析によれば、上院法案の実現により、大規模および小規模グループ保険市場双方における保険料の平均は基本的に変化しないか、むしろ下がるかもしれないという。
(*CBOの定義では小規模グループ保険市場は50名以下の従業員の企業)


しかし上院案においては、非グループ保険市場での平均の年間保険料は個人で5,500ドルから5,800ドルに、家族では1万3,100ドルから1万5,200ドルに上昇する。ただ、57%の加入者にとっては、連邦政府が保険料に補助金を支出することにより実質コストが大幅に下がる可能性がある。さらに、上院案において非グループ保険市場の保険料が上昇する最大の原因は、新プランにおける保険カバレッジに関する条項が、非グループ保険市場内の現在のプランよりも平均してずっと良くなるからだ。あまりよくないカバレッジしか提供しないことの多い現在の非グループ保険市場のプランとは対照的に、ヘルスケア改革の下では、非グループ保険市場におけるプランの保険カバレッジは、基本的に現在のグループ保険市場におけるそれと同じになるだろう。改革法案の他の影響、すなわち事務運営費用が若干低額になることや、加入者群の健康状態が多少良好になるといったことで、より統合的なカバレッジを提供することにより上昇する保険料はわずかだが相殺される。

つまり、CBOの分析によれば、上院の改革法案では、多くの受給者にとっての平均保険料は基本的に変わらないまま留まる。非グループ保険市場では、より良い保険カバレッジが得られることを理由に保険料は上昇するが、非グループ保険市場の受給者の57%は連邦政府からのかなりの額の補助金を受領するので、彼らの負担分は平均保険料よりもずっと低額になるだろう。

2009年11月8日日曜日

Brent James博士とIntermountain Healthcareにおける継続的な質の改善

昨日のニューヨーク・タイムズ紙に、David Leonhardt記者による、Intermountain Healthcareのヘルスケア提供アプローチに関する素晴らしい記事が掲載された。(こちらから読むことができます。)Intermountain Healthcareについては以前にも当ブログで触れたが、弊社は今年初め、弊社発行物「米国製薬業界週報」の取材でIntermountainの主導者の1人にインタビューを行っているため、そのアプローチ自体は、私たちにとって特に目新しいものではない。しかし、この記事の記者はその他の視点に深く配慮し、Intermountainのアプローチを医師に採用させることの難しさを強調した。
Brent James博士の指揮の下、Intermountainは、質の高いトヨタの製造アプローチを取ったのとほぼ同様の方法で、質の高いヘルスケアの提供アプローチを行う。同じ病状で来院した患者を治療する際に、各医師により生じる処置の差異を減らし、そして継続的に、患者の治療アウトカムをより改善させるような治療プロトコールに改良していく。このアプローチに対する批判としては、自動車の製造とは異なり、患者は個々に異なるため、フリーサイズのアプローチは、患者によっては最適とはならないケアを受ける結果となる可能性がある。
Intermountainはしかしながら、患者によっては標準プロトコールから離れた治療が必要な可能性があることを認識している。Intermountainの観点では、医師の経験とトレーニングが最も価値を持つのは、そういったケースを判別する能力にこそある。John Wennberg博士とダートマス大学の博士の同僚はしかしながら、適当と認められていない医師の自由裁量による治療は、米国ヘルスケア・システムで提供される高コストと低クオリティーなヘルスケアの説明となることを、繰り返し示している。
Intermountainのアプローチの鍵の一つは、結果を評価できることにある。それは、その電子カルテ(Electronic Medical Record、EMR)システムによって可能になった。オバマ政権が、病院や医師によるEMR導入のイニシアチブをこれほどまでに強調してきた理由の一つは、そこにある。医療提供の方法を変えることなくEMRを導入することは、質の向上とはならないが、EMRを通じてアウトカムを追跡できるようになることは、非常に重要なステップとなるかもしれない。それは、医師に対し最適治療の導入の説得するための証拠の基盤を提供することとなるだろう。

下院、ヘルスケア改革法案を承認

米国連邦議会下院は土曜日、220対215で下院版のヘルスケア改革法案を承認した。39人の民主党員が反対に投票し、ルイジアナ州選出Ahn “Joseph” Cao下院議員が唯一の共和党員として賛成票を投じた。
下院投票は重要なマイルストーンであるものの、最終的な法案の形成に最も重要となるのは、上院が承認できるものはどんなものであるかということだ。今週、上院多数党リーダーHarry Reid議員は、上院版の法案を発表することが見込まれている。それはおそらく、Max Baucus議員が中心となってまとめられ、上院財政委員会が承認したものに似た、新設となる保険エクスチェンジで保険未加入の中間所得層が保険を購入する際の援助が下院版と比較して多くないものとなるだろう。
下院版の法案が上院を通過する可能性は非常に低いものの、やがてまとめられることになる、より保守的な予算の上院版法案は、下院の保守系民主党員に訴えるものとなり、十中八九、下院を通過するだろう。多くの保守系民主党員は、去る土曜日に下院版法案に反対票を投じている。

2009年11月5日木曜日

針に糸を通す

先週は、多数党院内総務ハリー・リード上院議員による上院版のヘルスケア改革法案の発表が見込まれていた。しかし今日になって、今週中の発表もないとの見方も出てきた。遅延の明確な理由は開示されていないが、法案施行のコストを抑える必要性と、現在健康保険を持たない比較的健康な中間所得層を引き付けるのに十分な価格に保険料を抑える必要性とのバランスをとるのに、同議員は苦慮していると思われる。

例えば、ボーカス法案に対する批判の一つに、中間所得層に対する保険購入のための援助が十分でないとするものがある。それは、援助を制限することが法案全体のコストを下げることに貢献しているにも関わらずである。例えば4万ドルから5万ドルの年収がある個人にとって、新たに設立される保険エクスチェンジを通じた保険加入には、年間およそ5,000ドルが必要になると見込まれている。実のところ、新法によって保険プランは既往症によって保険加入を拒否できなくなるため、病気になったとわかってから保険に加入することを防ぐものは何もない。そのため、保険加入のインセンティブは殆ど無いと米国民が感じる可能性がある。

個人の保険加入を義務化して保険に加入しない個人に高額のペナルティを課すことは、「タダ乗り」問題を回避できるかもしれないが、連邦議会の民主党リーダー等は、保険に加入しない中間所得層に高額ペナルティを課すことには消極的である。とりわけ、保険が経済的に容易に加入できるものとみなされない場合は、ペナルティ設定には躊躇するだろう。高額ペナルティは政治的に不人気ともなる。しかしながら低額のペナルティは、保険加入のインセンティブとして十分なものとはならないだろう。

一つの可能性として、現在保険に加入していない、比較的若く健康なアメリカ人は、保険エクスチェンジに加入しないことになるかもしれない。そして、保険プールはヘルスケアコストがより高額な、比較的不健康なアメリカ人によって形成されることになり、結果として平均保険料を押し上げることになるだろう。平均保険料の上昇に従って、保険エクスチェンジに参加するアメリカ人は、さらに少なくなるかもしれない。

このような事態を回避するために、リード上院議員は個人保険加入義務化に関する援助とペナルティの程よいバランスをとり、それを法案施行の全体コストを抑えながら実現する必要がある。これはまさしく、糸を通すのがとても難しい針といえるだろう。

2009年10月16日金曜日

ビリー・トージン氏が約束する800億ドル

現在検討されているヘルスケア改革法案の主要目標は、特に保険に加入していない米国民の数を減らすことによって、健康保険カバレッジを拡大することにある。健康保険カバレッジが拡大すれば処方箋医薬品を含むヘルスケア製品・サービスの消費量も拡大し、製薬企業にとっても利益となる。ヘルスケア市場を拡大させる見返りとして、オバマ政権は保険会社、病院、製薬会社を含む、改革によって利益を得る各方面に譲歩を求めてきた。ビリー・トージン氏をリーダーとする米国研究製薬工業協会(PhRMA)は今年6月、オバマ政権が求める譲歩に合意、製薬業界は10年間に渡り、800億ドルを負担するという方針を発表した。この合意の詳細は一切公にされていないものの、8月には、多くの連邦議会民主党議員の意向に反して、オバマ政権は、現行のメディケアパートD処方箋医薬品給付プログラムにおいて、連邦政府は薬価の直接交渉を行わないと確約したことが明らかになった。
この800億ドルの内訳は、どうなっているのだろうか。 内訳の詳細は未だ開示されていないが、ボーカス法案に含まれる条項のうち、製薬企業の減収につながる主なものをベースに、大まかな見積もりを立てることはできる。
まず第一に、いわゆるメディケア・パートDの「ドーナツ・ホール」に差し掛かった受給者が購入する医薬品に対して、50%の価格割引を提供する条項が挙げられる。ドーナツ・ホールにおいてメディケアは、処方箋薬のコストをカバーしない。
なお、同割引は、メディケア受給者の中で最もヘルスケアコストが高いグループの一つである二重資格者(メディケアとメディケイドの両方に加入するグループ)が購入する処方箋医薬品には適用されない。 二重資格者の医薬品購入には、これまでも援助金が支給されているため、彼らにはドーナツ・ホールのルールが当てはまらないからだ。また、より高額のパートB保険料を支払う必要がある高収入のメディケア受給者にも割引は適用されない。これら以外の受給者は、2010年7月よりドーナツ・ホールにおける医薬品購入に対して50%の割引を受けることになる。大まかに見積もって、この条項により、製薬業界の負担は向こう10年間で300億ドルとなる。
第二に挙げられるのが、メディケイドプログラムでのブランド医薬品購入に対して製薬企業に課せられる法定リベート率が15.1%から23.1%に引き上げられる条項である。血液凝固因子および小児科での使用に限って承認された医薬品は、15.1%から17.1%になる。この条項による製薬業界の負担は、大まかに見積もって10年間に300億ドルとなる。
第三に挙げられるのが、後続バイオ製品導入による競争激化に伴う収益の縮小である。 ボーカス法案には後続バイオ製品に関する条項は現在のところ含まれていないが、下院エネルギー・商業委員会の修正法案および上院HELP委員会の法案には、12年間の独占期間を与える条項が含まれている。最終法案にも、後続バイオ製品に関する条項は含まれると見られている。後続バイオ製品の導入は、大まかに見積もって製薬業界に10年間で70億ドルの売上損失をもたらすことになる。
第四に挙げられるのが、製薬業界に課せられる1年間23億ドルの新たなフィーである。このフィーは、メディケア、メディケイド、退役軍人局の健康保険プログラム、トライケア(TRICARE)陸軍プログラムを含む公的保険における、各企業の市場占有率に応じて課せられる。なお、オーファン・ドラッグの売上は市場占有率の計算対象に含まれない。年間売上4億ドル未満の企業には、市場占有率算定の目的で売上を計算する際に、「ハンディキャップ」が与えられる。また、年間売上500万ドル未満の企業は、このフィー支払いが免除される。2010年のフィーは、2009年の売上を基に算定された市場占有率によって計算される。フィー支払い額を1年間23億ドルとすると、10年間における製薬業界の負担は230億ドルとなる。法律によって、米国所得税上このフィーは控除対象とならない。
以上四点の負担額を合計すると、10年間で製薬業界の負担分は900億ドルとなり、PhRMAのビリー・トージン氏が確約した800億ドルより100億ドル多くなる。

2009年10月7日水曜日

メディケア給付のカット:嘘かまことか

ヘルスケア改革法案をめぐる議論の火種の1つは、上院・下院で提案されている法案がメディケア受給者のベネフィットを削減するものであるかどうかだ。当然のことながら、高齢者を結集させる最も早い方法は、高齢者の給付内容を削減する法案を出すことだ。ヘルスケア改革反対派は、両院から出された各法案は実にそれを行っていると主張している。この主張は正当なのだろうか?
ひと言で言うなら、答えはイエスだ。少なくとも、民間保険会社がメディケアから資金を受けてパートAおよびBに代わる給付パッケージを提供する、メディケア・アドバンテージ(MA)プランに加入する受給者にとってはそうである。両院の法案共に、最も大きな節減元は、MAプランへの支払いの変更によるものである。
当初は、民間保険プランがメディケアに参加することによって、受給者は出来高払い(Fee-For-Service、FFS)のメディケアよりも質の高いコーディネートケアを受けられるようになるのではと期待されていた。また、民間保険プランは、従来のメディケアよりも効率性が高ければメディケアの節減につながる可能性すらあると考えられていた。例えば、メディケア受給者1人の医療サービスに対するメディケアプログラム年間平均コストが1万ドルである、国内のある地域において、民間保険プランなら1万ドル未満で同じ給付内容を提供できるかもしれない。もしメディケアから民間保険プランへの支払いは9,750ドルで、プランは9,500ドルで給付を行えるなら、メディケアプログラムにとっては250ドルの節減、民間保険プランにとっては、250ドルの追加利益となる。しかし近年では、プランに参加を促すため、議会が設定しているMAプランへの支払いの基準となるベンチマーク(その率は郡ごとに定められている)は、ほとんどの地域において、該当地域での受給者あたり平均メディケアコストを優に上回っている。
MAの支払いメカニズムは、郡ごとに、各プランがベンチマーク率に対し入札を行うというものだ。入札額がベンチマークより低ければ、そのプランは入札額に加え、入札額とベンチマークの間の差額の75%を受け取る。残りの25%は、メディケアが保持する。つまり、ベンチマークが1万2,000ドルでプランの入札額が1万1,000ドルの場合、プランは1万1,750ドルを受け取ることになる。MAのルールによれば、プランは追加で獲得した750ドルを、追加給付の形で受給者に提供しなければならない。この例では、受給者は750ドル分の追加給付を受けることになる。
しかし、通常のメディケアFFSと比較して、各郡における受給者あたり平均コストはずっと高い。上記の同じ例では、メディケアは、コスト1万ドルではなく、1万1,750ドルをプランに支払っている。受給者が750ドル分の追加給付を受けられることは確かだが、その追加給付分に対しメディケアは1,750ドルを支払っている。受給者にとっては、追加給付を受けられることから、通常MAプランをより好み、近年加入者数は急増している。現在、メディケア受給者の4人に1人がMAプランに加入している。

メディケアFFSと比較した場合の各MAプランの超過分


メディケアは2009年、MAプランに対し、メディケアFFSと比較して14%多く支払いを行っている。議会が節減元に定めているのは、この超過分のコストである。下院案はベンチマークの率を各郡における受給者1人あたり平均メディケアFFSコストの100%に定めるとしている。上院案は、ベンチマークを各プランの入札額の加重平均にするとしている。いずれの場合も、節減額は相当なものになる。しかし、ベンチマークが低くなれば、プランは現在提供しているようなレベルの追加給付を維持することはないだろう。つまり、こうした追加給付分が削減されることは事実だが、メディケア・パートAおよびBの従来の給付が削減されるわけではない。